日本FIT会


パネル・ディスカッションの詳細

 セミナーの第2部では、起業・リーダーポジションの視点から 「ファッションビジネスキャリアにおける留学の意義」をテーマに、ファッション業界の第一線でグローバルに活躍中の4名のFIT卒業生をパネラー及びモデレーターとして迎え、各パネラーのFIT留学時の話を中心に、貴重な体験談を伺いました。

 

伊藤弘子 Menswear Design / 90卒

ゼロゼロエスエス株式会社代表取締役。FIT卒業後、コムデギャルソンを経て、2001年から東京コレクションに参加するHISUIのデザイナー。現在はロシアや韓国でもショーを行い、世界中で活躍。

布谷千春 Fashion Design / 82卒

株式会社フォルトナボックスを代表取締役。FIT卒業後はコルクルームを経て、フォルトナボックスを創業。ファッション情報分析、流行色の発信・提案など、各種媒体で活躍。

村上潤 Fashion Design / 02卒

株式会社オンワード樫山 シンガポール代表取締役社長。国内で商品企画・MDを5年間勤務後、08年の香港を経て、10年からシンガポールの代表として東南アジアでの事業展開を担う。

江草未由紀 Fashion Merchandise Management / 99卒 (モデレーター)

住友商事株式会社ブランド事業部課長。FIT卒業後、米国コーチ社との合弁交渉に携わり、コーチ・ジャパン株式会社に出向し、ブランドマーケティングに携わる。現在、コスメ新業態開発プロジェクトに従事。

 

Q1 なぜ留学をするに至ったのか、なぜFITだったのかを交えつつ、簡単に自己紹介をお願いします。

 伊藤: 初めは英語を学ぶ為にボストンの女子大に入学しました。 そこで色々な方々との出会いや出来事の中で刺激を受けるうちにファッションを学びたいと強く思い、1年後NYに移りました。

布矢: 父親が米系航空会社に勤めていたので、幼いころからアメリカが身近でありました。 親元を離れ、アメリカで自立した生活を送ると自ら成長出来ると思い、好きなファッションを学ぶならNYのFITへ留学するという思いが強くありました。

 村上: 日本の大学在学中はビジネスを学んでいましたが、クリエイティブな仕事がしたいと思い、卒業してまもなくFITに入学しました。 FITでは1年半在学していましたが、日本人として、日本のファッションを世界に発信したいと強く思い、日本へ帰国しました。

 

Q2 留学中は、どんな学生生活を過ごしましたか?

 伊藤: ボストンの女子大時代に出会った人との交流をする中で、自分の将来の道を発見しました。
FIT在学中は常に服作りに励んでいました。 夜中まで夢中でミシンを踏んだり、教室の隅で作業しながらクラス見学をしたりしていました。

 布矢: 80年代に渡米した当時は1ドル260~280円の時代でした。日本では何不自由なく暮らしていましたが、NYでは金銭面で大変苦労しました。 FITの授業では、生徒が先生に対して正々堂々と反対意見を述べることが出来る、そんな環境にカルチャーショックを受けたことを今も忘れません。
先生も、生徒が間違っていると分かっていても、常に真正面から生徒と向き合い、接していました。

 村上: 留学中は学校の寮で1年間生活をしましたが、外国人とのルームシェアはとても新鮮でした。 ルームメイトと寝食を共にしていく中で、全く異なった文化や国を超えてお互いの理解を深め合う事出来たと思います。 NYに観光で訪れるのと、実際住んでみないと分からない事がたくさんあります。 NYは世界でもまれにみる多種多様な人種の街です。その中で生活する毎日の日々が刺激的でした。

 

Q3 一連の留学生活を通じて、自分にとって一番大きな収穫とはなんですか?

 伊藤: 留学以前は常に周りの目を気にしている臆病な部分がありました。 NYという街は人種のるつぼ。 日本では体感出来ない自己表現力が身に付き、精神的にも体力的にも強くなる街です。 私自身はファッションで自分の道を切り開きたいと思い、踏まれても立ち上がる勇気も持って、“服作り”で自分自身を表現する事に挑戦していけたと思います。

 布矢: FIT美術館で現役時代のシャネルスーツに触れたことに感動しました。NYに住んでいるとストレスや苦労が多いが、NYで生活出来ると、どこへでも行ける自信になりました。失敗も多かったですが、その失敗の連続の中で大変な事を乗り越えていかないと成長出来ない、と気付いた事が一番の収穫でした。

 村上: 海外慣れした事。 慣れるというのは、「順応できる」という事。 赴任後は現地の人達と仕事をする中で交渉しなければなりません。 その際、NYで身に付いたコミュニケーション能力、外国人の方々に対して抵抗感無く接する事が出来るようになりました。

 

Q4 卒業後、どのようにして就職をしましたか?またその後、どのようにして今のキャリアを形成しましたか?

 伊藤: 帰国後はスタイリストのアシスタントのアルバイトをし、日本文化を学ぶべく染色を勉強していました。 その後、27歳でコムデギャルソンに入社し、自分のブランドを立ち上げる為、5年後に独立しました。NYで生活する中でチャンスを嗅ぎ分ける術を身に付けることが出来たと思います。

 布矢: JFFの時にお世話になった方のご紹介で、コルクルームに就職しました。 私自身、物怖じしない性格ゆえ、人との出会いの中で、自ら新しいクライアントを開拓していき、会社での売上はトップ。 その後、独立させてもらい起業することが出来ました。

 村上: オンワード就職後、MDとして日本で5年間勤め、自ら海外勤務へ志願し、08年に香港へ赴任、10年よりシンガポール在中。 現職ではアジア事業展開に携わっています。

 

Q5 最後に、これから留学しようとしている若き後輩に、アドバイスを一言ずつお願いします。

 伊藤: 海外で様々なバックグラウンドの人と出逢い、コミュニケーションを図ることで新たな自己発見が出来ると思います。 自分に自信を付ける為にも、事前にしっかりと英語力を付けておくことは必須です!

 布矢: 留学を迷っているなら、まず一歩踏み出してみること。 留学に失敗はありません。
多様な人種の方々との触れ合いの中で、自分自身を開拓し、自らのアイデンティティーを確立することが出来ると思います。 また、海外に身を置くことで、改めて日本人としての美意識や凛とした強さ、そして物事を固定観念で捉えない柔軟さを肌で体感することができると思います。

 村上: 何事も計画性が大事だと思います。留学後に、自分は何がしたいかという明確なビジョンを持つことで、将来に繋がると思います。 あとインターンはぜひ経験しておく事ですね。

 

<総括>

  江草: 今日は「留学」をテーマにして、「グローバル人材」とはについて議論してきましたが、これを総括すると、やはり冒頭の「自立」に集約されると思います。留学体験を通じて、伊藤さんは「将来の道」を発見し、「自己表現」に対して前向きになった、布矢さんは「精神的・物理的な自立」を果たし、日本人としての「しなやかな強さ」を獲得した、村上さんは「海外慣れ」によって、赴任後の活躍の場が広がった、と仰っています。

これからのグローバル時代、外国人と渡り合い、競争に打ち勝っていく為には、相応の能力や見識、多様な価値観を受入れる柔軟性に加えて、やはりこれらに裏打ちされた「自立」により、一人の人間として信頼されることが、益々重要になってきます。留学は一つの方法にすぎません。が、もしその必要性を感じたら、まず一歩踏み出してみること。 人生の成否は、ちょっとした出逢いや気づきがきっかけとなり、取る行動の積み重ねで決まります。

今日のこのセミナーが、皆さんにとって、そのきっかけの一つになれば嬉しく思います。

 

要約:江草未由紀・渡邊真理子

 
 

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